11.阿蘭陀Language

どうかOranda Rangeと発音して下さい。


 小説に説明をしてはならないのだそうだが、うぬぼれは誰にもあるもので、この話でも万一ヨーロッパのどの国かの語に翻訳せられて、世界の文学の仲間入をするような事があった時、よその読者に分からないだろうかと、作者は途方もない考えを出して、行きなり説明を以てこの小説を書きはじめる。阿蘭陀流といえる俳諧は、その姿すぐれてけだかく心ふかく詞新しく、合い言葉はパクろうぜ!です。御存じであろうか? 御存じない。それは大変残念である。つれづれなるままに、日くらし、女もする日記というものを、男もしてみようと思って、するのである。この書き物を私はお前たちにあてて書く。
 岸本君――僕は僕の近来の生活と思想の断片を君に書いて送ろうと思う。然し実を言えば何も書く材料は無いのである。黙していて済むことである。こんな手紙を上げるのは、道理(すじみち)から言っても私が間違っている。けれど、私は、まだお前と呼ばずにはいられない。どうぞ此の手紙だけではお前と呼ばしてくれ。またこんな手紙を送ったと知れたなら大変だ。私はもうどうでもいいが、お前が、さぞ迷惑するであろうから申すまでもないが、読んで了ったら、直ぐ焼くなり、どうなりしてくれ。
 恥の多い生涯を送って来ました。僕は、僕の母の胎内にいるとき、お臍の穴から、僕の生れる家の中を、覗いてみて、「こいつは、いけねえ」と、思った。頭の禿げかかった親爺と、それに相当した婆とが、薄暗くって、小汚く、恐ろしく小さい家の中に、坐っているのである。だが、神様から、ここへ生れて出ろと、云われたのだから、「仕方がねえや」と、覚悟をしたが、その時から、貧乏には慣れている。
 私は五十年おふくろとつき合ってみたがまったく女というものはバカでこまるよ。そのバカなおふくろのおなかから生まれた私がどうしてバカでない道理があるものか? ザマア見ろ! てんだ。
 馬鹿な、馬鹿な! 貫一ほどの大馬鹿者が世界中を捜して何処に在る 僕はこれ程自分が大馬鹿とは、二十五歳の今日まで知……知……知らなかった。
 わっと泣き出して母にきつくかじりついた。母はそのまま立って子の顔を見ていたが「可笑しい子やないか、」と呟くと彼女の張り詰めた気力の糸が、ぶつりと切れたように、彼女はぐったりとなってしまった。やがてその手がばたり畳に落ちたと思うと、大いびきをかいて、その顔はさながら死人のようであった。
 これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿馬鹿しくなる。
 僕はその夕がた、あたまの労れを癒しに、井筒屋へ行った。それも、角の立たないようにわざと裏から行った。しかしそこで乃公は人を殺してしまった…それも憎い仇ならまだしもであるが、普段から弟のように親しんでいる源三郎をみごとに殺してしまった。
 本屋の二階だった。二十歳の彼は書棚にかけた西洋風の梯子に登り、新らしい本を探していた。モオパスサン、ボオドレエル、ストリントベリイ、イブセン、ショウ、トルストイ、……今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。
 大きな箱入りの札目録を、こごんで一枚一枚調べてゆくと、いくらめくってもあとから新しい本の名が出てくる。小説が好きで、国に居る時分から軍記物や仇討物は耽読していたが、突然どこから起ったか分らない好奇心に駆られて、すぐその一頁を開いて初めから読み始めた。中には恐るべき話が書いてあった。


 議員がしたことは決して許される種類のものではありませんが、あれだけ真面目な性格でクヨクヨ反省している様子を見ますとちょっと気の毒にも思えてくるそんな心優しいボクCameLieOnですコンバンワ。──いまだに自分の名前が読めません。カメ・ライオンなのかカメラ・イオンなのかケムリー・オンなのかキャメル・イーオンなのかカメリェオンなのかウガンダ・トラなのか皆目見当がつきませんCameLieOnですコンバンワ。
 いいですねー武部幹事長。一体どんな政治家だったのでしょうか。100年前の資料をもとに調べてみますよ。「調べてみますよ」なんて生意気を言ってしまいましたが、ボクの手元にある資料は古本屋で売られていた100円の本。やたら分厚いくせに情報量が不足していますし、信用に足る資料なのかどうか定かではありません。値段も心もとないのですがなにしろ題名が『わくわく21世紀!! 手に取るようにあの日がわかるわい』なので不安は一層濃くなるばかりです。
 この本の「政治家列伝」の章を閲覧してみます。
 ぶぶ、ぶぶ。
 あれ?
 ぶぶ、ぶぶ…。
 無いな。
 ぶぶ、ぶぶ…。
 おかしいな、いないなぁ。
 すみません。武部さんは無名らしく、載っておりません。ああ、まいったな、記事が書けないや…。しょうがないので、竹内平蔵について書いてみればいいんではないでしょうか。いいんでしょう。
 たけうち、たけうち…。
 あ!
 武部、「た」の項にいたよ! なんでだよ、なんだよこの本。やはり、所詮は100円のクズ本であります。


「何? え? カメレオン? え? カメレオンぢゃないか。生きてるの?」
 思い掛けないものの出現に面喰って、私が矢継早やに聞くと、生徒は「ええ」と頷いて、顔を赭らめながら説明した。極めての大胆と全くの無神経とは時によって一致します。
「馬鹿だ、こいつは」
 この言葉を聞くとはっと胸がとどろいた。変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
 不幸、短命にして病死しても、正岡子規君や清沢満之君のごとく、餓しても伯夷や杜少陵のごとく、凍死しても深草少将のごとく、溺死しても佐久間艇長のごとく、焚死しても快川国師のごとく、震死しても藤田東湖のごとくであれば、不自然の死も、かえって感嘆すべきではないか。
 「ドカン、ドカドカ、ドカーン」といったような不規則なリズムを刻んだ爆音がわずか二三秒間に完了して、そのあとに「ゴー」とちょうど雷鳴の反響のような余韻が二三秒ぐらい続き大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗いろのつめたそうな天をも焦がしそうでした。争う色彩の尖影が、屈折しながら鏡面で衝撃した。一瞬ニシテ 全市街崩壊
 危険を冒して近寄ってみると、倒れているのは瘠せコケた中年男だが、全身紫色になった血まみれ姿だ。死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。それを見たらおれは口が利けなかった、男が泣くてえのはおかしいではないか、だから横町のじゃがたらに馬鹿にされるのだ。何もかもいやになりゆくこの気持よ。思い出しては煙草を吸うなり。
 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。月日は百代の過客にして、行かう年も又旅人也。ポンポンポンポンと木魚の音がしています。窓の障子にあかりがさしていて、大きな坊主頭がうつって動いていました。あはれなり。人の上に人をおきなというなら、これでよかったのだ。
 ああ俺はもう生きて居られなくなった。友よ俺が書き残そうとした事は以上の事である。どうぞ俺を哀れんでくれ。
 文書はここで終って居た。字体や内容から見ても自分は金子の正気を疑わざるを得なかった。


 かの森鴎外によれば「小説に説明をしてはならないのだそうだ」という事ですが、あまりにも意味不明な小説を突き付けられて面食らった読者も多いでしょうから、少し弁明させて下さい。
 盗作品、もとい当作品『阿蘭陀Language(オランダ・ランゲ)』は、テクノやブレイクビーツなどのクラブミュージックにおいて用いられる音楽方法論「サンプリング」を、文章芸術の世界にも援用してみようと試みた前衛作品です。
 著作権の切れた小説・随筆群から素材となる文を手当たり次第に抜き出して来、素材それ自体は未加工のまま恣意的に繋ぎ合わせて再構成しました。俎上に上った作品総数は実に53作品。『河童』と『土左日記』からの抜粋を少し改変した以外は、私は一字たりとも創作していません。
 私はこの作品を、題名や手法からも察せられる通り、パクリで有名な某アーティストへ捧げようと思います。

<サンプリング元一覧>
 芥川龍之介『河童』
 森鴎外『百物語』/井原西鶴『三鉄輪』/Orange Range(『bounce』のインタビュー記事)/坂口安吾『風博士』/吉田兼好徒然草』/紀貫之『土左日記』/有島武郎小さき者へ
 島崎藤村『新生』(「岸本君」~「黙していて済むことである。」)/近松秋江『別れたる妻に送る手紙』
 太宰治人間失格』(「恥の多い生涯を送って来ました。」)/直木三十五『貧乏一期、二期、三期 わが落魄の記』
 辻潤『だだをこねる』
 尾崎紅葉金色夜叉
 宮本百合子『墓』/横光利一『父』(「母はそのまま立って」~「と呟くと」)/菊池寛真珠夫人』(「彼女の張り詰めた」~「ぐったりとなってしまった。」)/国木田独歩『疲労』(「やがてその手が」~「死人のようであった。」)
 田山花袋『蒲団』
 岩野 泡鳴『耽溺』/西田幾多郎『絶対矛盾的自己同一』(「しかしそこで」)/海野十三『不思議なる空間断層』/岡本綺堂『鳥辺山心中』(「それも憎い仇」~「源三郎を」)/鈴木三重吉古事記物語』
 芥川龍之介或阿呆の一生』(「本屋の二階」~「トルストイ、……」)/岩波茂雄『読書子に寄す』
 夏目漱石『三四郎』/二葉亭四迷『平凡』(「小説が好きで」~「耽読していたが、」)/夏目漱石彼岸過迄
 Camelieon『22世紀日記』(「議員が」~「クズ本であります。」)
 中島敦『かめれおん日記』/中里介山大菩薩峠』「甲源一刀流の巻」(「極めての大胆と」~「馬鹿だ、こいつは」)
 紫式部源氏物語与謝野晶子訳(「この言葉を聞くとはっと胸がとどろいた。」)/梶井基次郎『檸檬』
 幸徳秋水『死刑の前』
 寺田寅彦『小爆発二件』(「ドカン、ドカドカ、ドカーン」~「余韻が二三秒ぐらい続き」)/宮沢賢治銀河鉄道の夜』/横光利一『ナポレオンと田虫』(「争う色彩の尖影が、屈折しながら鏡面で衝撃した。」)/原民喜『原爆被災時のノート』
 夢野久作『爆弾太平記』/堀辰雄『聖家族』(「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。」)/樋口一葉たけくらべ』(「それを見たらおれは」~「馬鹿にされるのだ。」)/石川啄木『悲しき玩具』
 信濃前司行長平家物語』/鴨長明方丈記』/松尾芭蕉『おくのほそ道』/新美南吉『ごんぎつね』(「ポンポン」~「動いていました。」)/清少納言枕草子』/福沢諭吉『学問のスヽメ』(「人の上に人を」)/作者不詳『竹取物語』(「おきなという」)/幸田露伴『鵞鳥』(「なら、これでよかったのだ。」)
 村山槐多『悪魔の舌』

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