7.五七五事件

「犯人は北鎌倉の香取哉」
 夏休み前日、二松学舎高に転校する森が黒板に記した。五月七日林間学校事件の鍵と書き添えて。
 おぞましい事件だった。くさいなあと思い窓から庭を見ると、白だったはずの布団が土色に染められ紙と共に遺棄されてたのである。飯を戻す者も居るほどの強烈な臭いだったし色も兇悪だった。布団に対し弔辞を読み上げた思い出が偲ばれる。この忌むべき惨事を引き起こした犯人は声明文を出さず、真相は闇の中だった。
「やつは誰の仕業か知っていたのか?」
 浮かれていたクラスは一瞬にして平和から混乱へ陥った。「犯人が布団を運ぶ場面を森は目撃したが、バラすなと父親に止められて今まで言えなかったのでは」などの憶測が飛び交う。皆の背中に汗が伝う。
 若き日の探偵・緒実が真相解明に乗り出した。
「犯人は、きっとこの俺が突き止めてみせる! みんな、勇気ある森の告発を、ムダにしちまうな!」
 けれど同級生は緒実をたよりになどしていなかった。「悲しい時~」であった。
それでも森の遺志を代弁する積で推理を箇条書きにした。
※ 香取という生徒は存在する。
 だが、以前から不登校で林間も欠席。犯人に上げられず
※ わかったぞ! 「北鎌倉」の「か」を取って「北枕」だ! あの日歌川が北枕で寝てた!
 しかし、歌川にはアリバイがある
※ 北枕→ 縁起悪い→ くそ演技をする演劇部か
 該当者無し
※ つまり大根、足?
 女子全員該当
※ まさか 香取→ 蚊取線香→ 先公の犯行? 刑事ぶって捜査してたのは偽装か
 緒実は困り果てた。どれも決め手に欠けてしまう。
「結局、誰が犯人かわからない。たぶん、また小説の文字を拾うんだな。面倒くせえ。今回は57517字」